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2023/07/14 02:09
月の光に照らされて
輝いた鱗と声の泡
君に届かずとも
君の血肉となる
それは昔、まだ妖怪と人の子が分け隔てなく暮らしていた頃、妖怪は人の子に化け共に畑を耕し海で漁をし暮らしていた。
人魚の母娘が村はずれに住む漁村に、「八重比丘尼伝説」を信じる若武者がやってきた。
若武者は重い病気の母のために人魚の肉を訪ね歩き、先刻この村に辿り着いた。
事情を知らぬ人魚の娘。
素性を知らぬ若武者。
二人は引き寄せられるように惹かれあうが、娘はやがて若武者の事情を知る。
若武者の母への深い愛情を知った娘は、自らの一部を差し出すことを決める。
「あぁ…。優しいあなた様。私があなた様に人魚の捕らえ方を教えましょう。」
娘は若武者に人魚の捕らえ方を教え、若武者は喜び人魚を捕らえその肉を持ち帰る。
目の前にいる人魚が惹かれた娘だと気が付かぬまま…。
罠に捕らわれたままの人魚の娘。
その傷は深く深く癒えるには人の子が何回転性を繰り返せば良いのか。
声にならぬ声は波間の泡と消える。
鱗も涙も乾きただ時が過ぎゆくのをじっと待たねばならぬ…。
しかし娘は満足そうに微笑む。
若武者が母のために満足そうに人魚の肉を持ち帰ったから?
いや違う。
「あぁ…。優しいあなた様。私があなた様に人魚の捕らえ方を教えましょう。」
続けて娘は言った。
「人魚の肉はまずあなた様が毒味をしてくださいまし。」
「人にやる前にまず、あなた様が。」
古来の日本において人魚の肉は不老長寿の効能があると言われていた。
人魚の肉を食べた娘がその後、比丘尼-びくに-(女性の修行僧)になって八百年生存したという話が各地に伝わったことに始まる。
これが「八重比丘尼伝説」である。